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専門家が教えるヒグマ対策・正しく知れば怖くない(対策編)

コラム
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皆さん、こんにちは。北国の案内人です。
前回はヒグマの生態について詳しく説明してきました。

▶「専門家が教えるヒグマ対策 正しく知れば怖くない (生態編)」

対策編では

「ヒグマに合わないようにするにはどうすればよいのか?」、
「出会ってしまった場合はどのように行動すればよいのか?」

などを詳しく説明していきます。

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ヒグマは人を避ける

・人を避けるヒグマ

まずはこちらの動画をご覧ください。

この動画は、札幌市広報部で盤渓地区に設置された定点カメラが捉えたものです。

ヒグマが何かの気配を察知して、急に落ち着かない様子になり、その場を立ち去っています。
その7分後、同じ場所を通り過ぎる男性の姿が収録されています。
男性の腰には鈴が付けられており、市はヒグマが鈴の音に反応したとみています。
一般的な野生のヒグマであればこのように非常に警戒心が強く、ヒグマの方から接触を避けてくれます。

ヒグマに出会う方が難しい?

ヒグマの専門家いわく、GPSを取り付けているヒグマですら接触するのは難しいそうです。
GPSを頼りに近づけど近づけど、人間を避けるようにヒグマは離れていきます。
ただ、遠くまで離れるわけではなく、一定の距離を保ち、安全なところから人間の動きを観察していることが多いようです。
ヒグマにはそうそう出会わないと思っている人も、実際のところはヒグマのほうが避けてくれているからこそ、
出会っていないだけなのかもしれません。

人がヒグマを恐れるように、ヒグマも人を恐れています。
ヒグマとの事故を防ぐためには、「ヒグマと接触しない」ことが重要です。

ヒグマによる人身事故

過去20年間(平成18年~平成30年):死亡 18件

▼見つけることができた死亡事故の詳細(一部)
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H18.06.16:山菜採り男性クマに襲われ死亡 (新ひだか町)
H18.10.14:駆除中に襲われ2名死亡 (浜中町)
H20.04.06:山菜採り男性襲われ死亡 (北斗市)
H20.07.30:ハンター襲われ死亡 (松前町)
H20.09.17:釣り男性ヒグマに襲われ死亡 (標津町)
H22.05.22:山菜採り男性死亡 (むかわ町)
H22.06.05:山菜採り女性死亡 (帯広市広野町)
H23.04.16:山菜採り男性死亡 (上ノ国町)
H25.04.16:山菜採り女性死亡 (せたな町北檜山区)
H27.01.26:枝打ち男性死亡 (標茶町塘路原野)
H29.10.03:キノコ採り男性死亡 (白糠町)
——————————–

▼事故発生時の主な状況:
・ヒグマと突然出会ったとき(主に山菜狩り)
・ヒグマを捕獲しようとしたとき

過去20年の間に18件の死亡事故が発生していますが、狩猟を除き
山菜狩りの際に多くの事故が発生しているようです。

山菜狩りは、笹やぶの中を移動することが多く、採るのに夢中になり、
[ヒグマに気付かれずに]至近距離まで近づいてしまうことがあります。

このようなシチュエーションは極めて危険であり、ヒグマ自身の自己防衛のため、出会い頭に襲ってくる場合があります。
山菜狩りでの死亡事故が多い背景には、この「突然の接触」が絡んでいることが多いようです。
逆に、ヒグマと遭遇しても、距離が離れていればいるほど、事なきを得る可能性も高まります。
このような状況にならないように、予めヒグマに自分の居場所を伝えることが重要なポイントです。

ヒグマ対策 ~ヒグマに出会う前~

その1:単独では動かず、パーティで行動しましょう

ヒグマとの人身事故では、パーティで居る時よりも、単独の方が襲われやすいという結果が出ています。
複数でいるほうが、「反撃されるリスクが高い」と考え、ヒグマの心理的負担も大きくなるためです。
そのため、野山に入る際は単独は避け、「極力パーティで行動する」よう意識しましょう。

その2:自分の居場所をヒグマにアピールしましょう

野山に入ったら、まずは自分の居場所をヒグマにアピールしましょう。
「山に存在しない音」であれば、ヒグマは敏感に反応します。

▼ヒグマに自分の居場所を伝える方法
——————-
・こまめに笛を吹く (音の異なる笛を複数持つとGOOD!)
・大きな声を出す(例:ホイ!ホイ!ホイ!)
・手をたたく
・注意力が下がってきたら熊鈴を使用する
——————-

ヒグマ対策といえば、すぐに「熊鈴」が思いつくのではないでしょうか?
「熊鈴」は動きに合わせて音が鳴るので、常時音を鳴らすことができる便利なアイテムです。
その反面、装着者は常に音にさらされるため、周りの音を感知しずらくなるデメリットがあります。
「すぐ近くの笹藪から音がした」、「水の音がするから近くに沢があるな」など、周囲の状況に注意を向けることは
ヒグマ対策だけではなく、危険回避(落石、鉄砲水等)の観点からも重要なポイントです。

周囲に注意を向けることができるよう、熊鈴ではなく、こまめに笛を吹くことをお勧めします。
さらに音色の異なる笛を二つ用意し、スイッチしながら吹くとなお良いでしょう。
パーティで行動する場合は、メンバーに別の音色の笛を吹いてもらいましょう。



こちらは筆者も携行しているホイッスルです。小型で、持ち運びにも便利です。常に首にぶら下げておいて、ちょっとここ見通しが利かないなというときや、沢の中や、沢の近くを歩いていた場合に適宜ならしてこちらの存在をヒグマに知らせておくことが必要です。

登山など長時間行動する場合には、後半になるにつれて疲労が溜まり、笛を吹くのを忘れてしまうことがあります。
このように注意力が下がってきた場合には、熊鈴を使用してもよいでしょう。ただし、極力、周囲への警戒は怠らないようにしましょう。

なお、ラジオも熊鈴と同様の効果がありますが、周りの人が嫌がる場合があるので、人気のない場所で使用する方が無難です。
ちなみに筆者は、日高山脈でテント泊する際に、ヒグマが怖くてラジオを付けたまま一夜を越したことがあります。

その3:危険な地形や熊の痕跡に注意しましょう

■危険な地形
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・川沿いや沢
・先が見えないカーブ
・笹藪の中
・廃道化した登山道や林道
———————————-

水の音がする川沿いや沢などは、音がかき消されるため注意が必要です。
先の見えないカーブの向こうには、ヒグマがいる場合がありますし、
笹藪に入ると姿を捉えにくくなりますので、不用意に飛び込むのは避けましょう。
また、登山道や林道は歩きやすいため、動物たちも頻繁に利用しています。
廃道化した場所は草木に覆われ、見通しが悪いだけではなく、動物たちの専用道路となりますので注意しましょう。

■熊の痕跡
【新鮮な熊の糞を発見した場合 [要注意] 】

提供 北海道道央地区勤労者山岳連盟

野山に入ると熊の糞を見る機会があるかと思いますが、水気を含んだ糞があった場合は要注意です。
少し前までその場所にヒグマが居た証拠ですので、警戒レベルを上げましょう。

【木の高いところに爪痕がある場合】

提供 北海道道央地区勤労者山岳連盟

ヒグマがマーキングをした時、サルナシやヤマブドウを採る時に、木に爪跡が残ります。
高い位置に、4~5本の爪跡が平行に並んでいる場合は注意しましょう。

提供 北海道道央地区勤労者山岳連盟

良く間違われやすいのは、エゾシカが角を研いだ際の跡です。
低い位置にあり、向きがバラバラなのが特徴です。

【フキの食痕】

フキが無造作に倒れている場合、それはヒグマの食痕である可能性があります。
つい先ほどまで食べていた可能性があるので、見かけた場合は警戒レベルを上げましょう。

提供 北海道道央地区勤労者山岳連盟

提供 北海道道央地区勤労者山岳連盟

上記イラストのように、引きちぎって食べるため、茎の繊維の一部が、裂けるチーズのように細くつながっている場合があります。

提供 北海道道央地区勤労者山岳連盟

提供 北海道道央地区勤労者山岳連盟

エゾシカの場合は、茎だけ食べて葉を放り投げます。
よく林道に、ひっくり返ったフキの葉が落ちていることがありますが、エゾシカの食痕です。

ヒグマ対策 ~ヒグマに出会ってしまった場合~

その1:絶対に走らない

ヒグマは走るものを追いかける習性があります。
いざ遭遇した時は、逃げだしたい気持ちになりますが、ぐっと堪えてください。

その2:大声を出さない

驚いて逃げ出す場合もありますが、ヒグマを刺激するので、やめましょう。

その3:死んだふりをしない

生態編でも触れましたが、ヒグマは容易に手に入る場合は鹿などの動物を襲います。
死んだふりは、容易に手に入る状況をこちらから作り出しているようなものなので、やめましょう。

その4:木の上に逃げない

ヒグマは木登りが得意です。木の上は安全な場所ではありません。
実際に木の上まで追ってきた事例があります。

その5:火を見せても無駄

動物は火を恐れると言いますが、ヒグマは火を怖がりません。
ヒグマを刺激する恐れがあるので、やめましょう。

その6:静かに距離を置く

ヒグマから視線を逸らさずに、静かにヒグマから離れてください。
襲ってくる場合もあるので、熊スプレーの安全装置を外し、いつでも噴射できるようにしましょう。

その7:それでもクマが迫ってきたら!最後は戦う

もう、こればかりはどうしようもないです。何かしらクマが人間に慣れていて
人から食料を得ることを知ってしまったクマは襲ってきます。
自分の命を守るためには戦わなくてはなりません。

山へ入る際はクマ撃退スプレーなどを携行しましょう。
常に腰に装着して、いつでも取り出せる状態にしておくことが大切です。
商品によっては、セーフティロックが欠落防止に結束バンドで止めている場合があります。
これはいざというとき使えませんので、必ず結束バンドは切っておいてください。
スプレーにもよりますが、クマ撃退スプレーは5m程届きますが、なるべく至近距離で顔をめがけて噴射しましょう。
風の強い日や風下では使えないという欠点もあります。



※いざというときにセーフティーロックをがかかているので、事前に外す練習をしておく。
下記は実際にロックを外すところを撮影しました。

なお、クマ撃退スプレーは、危険物のため、航空機への持ち込みは出来ません。

そして、これは最終手段。サバイバルナイフ。
こちらもスプレー同様に腰に装着して、いつでも取り出せる状態にしておくことが大事。
体は肉が厚く、致命傷を負わせるのは難しいので、狙うのはこちらも顔を狙いましょう。





顔を切り付けて、助かったという人もいます。

あくまでも、スプレーやナイフなどは、最終手段です。
ヒグマと遭わないようにしておくことが重要です。
そのためにはこちら人間の存在をしっかりとアピールしましょう!

ヒグマ対策 ~親子熊について~

親子熊は非常に危険です。子熊を守るため、母熊は襲ってきますので、
子熊を見たらすぐにその場から引き返しましょう。

【ブラフチャージ】
子熊が逃げる時間を稼ぐために襲ってきた場合、母熊は目の前まで止まることが多いです。
子熊の安全が確保され次第、母熊は居なくなります。

※ブラフチャージ:相手を脅すために突進して攻撃するふりをする行為。

ヒグマのあれこれ

【アイヌの女性のヒグマ除けアイテム】

余談ですが、ヒグマは蛇を恐れる習性があり、アイヌの女性はヒグマ対策として縄を持ち歩いていたそうです。
現代では百均に、よりリアルな蛇のおもちゃが売ってます。

万が一、遭遇した時ように持ち歩いては如何でしょうか?

【ヒグマはガソリンが好き?】

ヒグマの主食の、蟻(蟻酸)やセリには刺激臭があります。
これらの餌を求める習性から、ヒグマは刺激のある臭いを探す癖があります。
山奥の工事現場などに置いたガソリン携行缶が、ヒグマに悪戯されるのには、このような習性があるためだと言われています。

【山で臭いのするカップラーメンは食べてはいけないのか?】

よく登山などでカップラーメンを食べていると、羆が寄ってくるからやめてほしいと嫌がる方がいます。
ヒグマの嗅覚は非常に優れており、臭いがしないと思っている食べ物であっても、遠くから臭いを感知することができます。
そのため、カップラーメンの臭いを気にするのは、あまり意味がありません。
むしろ、刺激臭のする食べ物(ミントやハッカなど)や、歯磨き粉に注意を払いましょう。

最後に:キムンカムイとウェンカムイ

ヒグマには「覚えた食べ物に執着する」という習性があります。
一度、人間の食べ物の味を覚えると、その食べ物を得るために、街まで降りてきたり、人間を襲う場合があります。
一度、そのようなヒグマになってしまった場合は、とても残念なことですが、駆除しなければなりません。

アイヌ文化においてヒグマ(キムンカムイ)は「山の恵みをもたらす神」として崇拝対象となっていますが、
いったん人を殺害しその血肉の味を覚えたヒグマは「ウェンカムイ(悪い神)」とみなされ、
討ち果たしたら肉や毛皮をはぎ取らずに捨て置くべきものとなります。

我々が野山に捨てたゴミを食べ、その味を覚えたヒグマも、残念ながらキムンカムイではなくなり、ウェンカムイとなってしまうのです。
ウェンカムイを生み出さないためにも、絶対に野山でゴミを捨ててはいけません。
ましてや興味本位でヒグマに餌付けするのはもっての外です。

本来警戒心の強いキタキツネが観光客の餌付け行為によって、人に近づいてくることがあります。
まさにこれと同じことがヒグマにも起きるということを。

キムンカムイとして、共存できる社会を築くためには、我々一人ひとりのモラルにかかっています。

※この記事は2019年6月12日(水)に開催された、北海道道央地区勤労者山岳連盟のヒグマ勉強会をもとに執筆しています。

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北海道の自然をこよなく愛する一児の父親。 無類の山好きで、夏山は札幌近郊から大雪山系、日高山脈など幅広く登っている。 札幌市内の某山岳会に所属し、沢登り、ロッククライミング、山スキーを修行中。 北海道100名山を網羅した北海道の山ガイドサイトを設立したいと考えている。

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